7月2日 スリランカ債務再編の現状👦
2023年7月2日/Srieko配信
あれから丸一年、昨年の今頃は、深刻な経済危機と社会不安に見舞われ、デフォルトによる経済崩壊で急激なルピー安、連日の長時間停電、燃料不足、医薬品不足、輸入品を中心とした物不足、急激なルピー安と物不足が引き起こす激しいインフレに見舞われ、民衆の生活は困窮を極め不満が爆発、連日の大規模抗議デモが行われていました。
そして、遂に7月9日には蜂起した民衆が大規模抗議行動に出た結果、ゴタバヤ・ラジャパクサ前大統領、ラニル・ウイクラマシンハ前首相他、各閣僚が辞任しました。民主主導の政治を勝ち取った記念すべき日となりました。
これでラジャパクサ独裁政権に一旦終止符が打たれたのですが、その後政権の空白を避けるため、ラニル・ウイクラマシンハ氏が暫定大統領となり、その後国会で大統領の承認(大統領は本来、国民の直接選挙で選ばれる)、ラジャパクサ一族の息のかかった国会議員もそのまま、各閣僚はほとんど変わらず再登板と、国をデフォルトに陥れた前独裁政権とほとんど同じ顔ぶれで、国家再生が始まりました。(この大統領就任、国会議員そのまま、各閣僚の再登板には、政治的な裏取引があったのではと巷で噂されています)
つまり今の政権は、国民の意志を反映した政権とはいいがたく、むしろラジャパクサ一族の前独裁政権が大統領の首をすげ替え、名前と衣を変えて新政権を装っていると考えると分かりやすいかもしれません。
◆スリランカ公的債務の現状
世界的な注目を浴び、新政権はIMFを中心とした国債金融機関から、再生融資交渉を始め現在に至るわけですが、大きなボトルネックとなっているのが、現在ある債務の継続性・・
スリランカの公的債務の総額は2022年末時点で、約US$837億米ドルといわれており、対外債務がUS$416億米ドル、国内債務がUS$421億米ドルでGDPの128%と危機的状況となっています。また、IMFからの指導で2027年までにUS$170億米ドルの公的債務削減(2032年目標GDP比95%に削減)を求められており、単独再生は困難な状況であるため、いわゆる債務再編が急務となっています。
では、対外債務とは何なのか?国内債務とは何なのか?の説明を簡単に加えておきたいと思います。
●対外債務とは
政府が他国の政府や民間機関から借りた債務(世界銀行、IMF、ADBなどを含む)
●国内債務とは
同一国内に居住する債権者に対する債務(財務省短期証券(1年以内)、国債などの債券、手形、政府株式など)
◆対外債務再編
ラニル・ウイクラマシンハ大統領が日本を何度か訪問していることから、皆様もご存じのように日本が主導しフランス、インドなどが音頭を取りながら債務再編機関をつくり、今年9月を目標に再編計画を纏めようと動いています。ただし最大の債権国である中国は正式に再編機関には加わらず、オブザーバーとしての参加のみに止まり、協力度合いは十分とは言えません。
◆国内債務再編
政府・中央銀行が主導し、昨日7月1日に国会承認を受け、強制執行される模様です。対外債務再編が進む中、国内債務再編も同時に行う必要があるとの政府方針で、国内債権者(国民)に大きな痛みを伴う政策であり、再編内容の全容が明らかにつれ、周辺がざわつき始めて居ます。
このために、政府は6月29日~7月3日まで政府機関と銀行を休みにしたころからも、どれだけ市場に対する影響が大きく警戒しているか伺い知れます。
今わかっている再編内容は以下となっています。
●スリランカ開発債(SLDB)など国内で発行されたドル建て債の保有者に3つの選択肢を提示
- 30%の元本削減(ヘアカット)、満期6年、金利4%(対外債務の国際ソブリン債と同条件)
- 元本削減なし、満期15年、猶予期間9年、金利1.5%(対外債務の2国間ドル建て債権者と同条件)
- 自国通貨建て債券への切り替え:元本削減なし、満期十年、金利はスリランカ常設貸出機関金利+1%
●年金基金(ETF)などが保有する自国通貨建て債券は、従業員積立基金(EPF)と同等の金利9%の新たな長期債券に切り替える=年金の先送り。これを選択しない場合現行の特別優遇所得税14%を30%に引き上げる。
*要は、国内経済が低調の中、歳入が大きく期待できないので、歳出をできるだけ絞り先送りしたい。賛同する者には優遇するが、賛同しない者には厳しく接するよ~という脅しです・・7月1日に賛成多数(賛成122、反対62、棄権40)で国会決議されましたので、以上は間もなく強制執行となることでしょう・・
◆まとめ
今回の国内債務再編は、穿ったい目で見れば、どうも政府と中央銀行が機を図っていたのではとも取れます。スリランカ政府は、国民、野党が国民の意志を反映すべく代表を選ぶ、大統領選挙、国会議員選挙、地方議員選挙を「お金がない」、「投票用紙の紙がない」と理由をつけては、選挙予定を伸ばしに伸ばしています。
現政権は、公的債務(対外債務、公的債務)の再編が済めば、IMFを始めとする世界の金融機関から、どしどし融資・投資が集まり経済が潤うと楽観的にとらえているのではないでしょうか・・そして国民は融資投資が集まったことによる一時的な活況で国内債務再編の痛みを忘れてしまい、また前ラジャパクサ独裁政権の引き起こした重大な罪も忘れるのではないかと高を括っているのではないでしょうか・・そのための時間稼ぎに選挙を伸ばしに伸ばしているのかと疑いたくもなります。
負の遺産の先送りはどの国でもやっていることですが、このような融資・投資をあてにした、他力本願的な旧態依然のやり方では、一時は潤うかもしれませんが、再び国家財政は真っ赤っかとなるこでしょう、しいては債務の継続性などは望むべくもありません。この国に限って言えば産業構造の脆弱さから、国家財政はここ数十年経常黒字になったことがないからです。
本当にこの国を良くするには、小手先の改革ではなく、十年単位での産業構造改革なのですが・・まずは国民の意志を代弁し纏めることのでき、先の見える優秀なリーダーを選ぶ選挙が第一歩になるのではと私は思うのです・・・。
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