3月13日 激しい通貨安、独立以来最悪の経済危機!?
2022年3月13日/Srieko配信
スリランカ中央銀行は、昨年10月来インフレ抑制対策として続けていた、ルピーの固定為替政策(USD1.0=LKR201~203)を断念し、先週末、突然即日実施で変動為替制に戻したため、急激なルピー安が進行中・・現在USD1.0=LKR260前後を推移、実勢からするとUSD1.0=LKR300付近まで下落の可能性が有ります。
これまでの経済省、中央銀行による「お粗末な金融政策」のため、外貨準備高が急速に減少していおり、1948年の独立以来最悪の経済危機を迎えているスリランカでは、連日の長時間停電、ガス、ガソリン、ディーゼル等の燃料をはじめ、輸入品の不足が顕著化・・パンデミックで疲弊した経済環境の中、急激なインフレ(スタグフレーション)が進行中・・更に輪をかけるように、先週末の為替政策変更による急激なルピー安を受け、ガソリン・ディーゼルなどの燃料価格が即反応、約1.5倍へ急上昇、今後他商品の価格へ大きく影響すると懸念されます。
しかし、あれだけ野党・有識者からの警告を無視し、固定為替制に拘ってきた中央銀行・経済省は、ここに来て事実上の金融政策の放り投げ・ギブアップ!・・公定レートと実勢レートの差が著しいルピーで、予告なく突然変動為替にすれば、現実問題として一般市民の生活に大きな影響が出る事は予想がついたはず・・中長期的に見れば、経済的には歓迎すべき事ですが、実施のタイミングと方法がこの為替政策変更の大問題と言えるでしょう。
今回の金融政策しかり、昨年の有機農業政策しかり、よくもここまで国内産業や市民生活を蔑ろにした政策を実施できるものです・・それも予告なく即日実施、即日廃止では・・市民感情は爆発寸前なのではないでしょうか。
そして、国の信用、海外投資家をあまりにも軽視し過ぎではないでしょうか・・国の信用が低く、投資環境(インフラやアフターケア)が整っていない国に、投資を行う企業や個人は少ないでしょう・・これでは外貨は集まりません。
【外貨準備高急減少の主要因】
●疲弊した経済下、膨大化する対外負債と経済対策の不透明感から、スリランカ国債はフェッチなど大手信用調査会社で、ジャンク債並み(CCグレード)に評価され、外国からの投資が激減 ⇒ 外貨大幅減
●極端な金融政策(固定為替政策)等による通貨流動性への影響で、固定レート(USD1.0=LKR201~203)と実勢レート(USD1.0=LKR270~300)との乖離が大きくなり、海外労働者の公式ルート送金が大幅に減少(闇ルート送金増) ⇒ 外貨大幅減
●武漢ウイルス・パンデミックによる断続的ロックダウンで、国内産業の低迷、輸出業・旅行業など外貨産業の停滞による外貨収入低調 ⇒ 外貨大幅減
●急激に変化する外的要因(世界的なエネルギー不足、食料不足など)で輸入による外貨出費の増大 ⇒ 外貨大幅減
このような経済危機は、30年程続いた内戦の間でも無く、内戦下でも貧しいながらも比較的経済は安定していたところから、内戦後の経済政策に起因するところが大きいと考えられます。
内戦を終了(2009年)させたマヒンダ・ラジャパクサ元大統領(現首相)は、2000年代後半、過激な内戦政策で西側諸国と対立し、手を差し伸べて来た中国と接近、中国も将来の一帯一路政策で、スリランカを地政学的に有用な地と考えていたのでしょう・・中国の後ろ盾を得たラジャパクサ元政権は、豊富な資金援助を得ながら、圧倒的な戦力で内戦を終了させ、並行して自身の地元にハンバントタ港・マッタラ国際空港・南部高速など巨大インフラ整備を行いました。
勢いづいた元大統領は、更にコロンボポートシティー・中北部高速・コロンボ港湾建設・諸々のリゾート建設など大型投資を、主に中国資本で促進させ、一見目覚ましい発展を遂げているように見えるスリランカには、外国諸国からの中大型投資が集まって来て、2010年代中頃は一種のバブルのような状況となりました。
*開発中のポートシティー(コロンボ)・・投資が集まらず苦戦中
しかし冷静になって見ると、内戦終了前までは、世界の最貧国に数えられ、さしたる産業も発展していないスリランカに残ったものは、首都圏からは遠く離れ、不便でほとんど使われていない港と空港、そして雪だるま式に膨れ上がった巨大な借金でした・・2015年頃から巨大な借金の償還が目立つようになり、借金の返済に借金を重ねるという、いわゆる自転車操業に陥ります・・その頃ラジャパクサ政権は倒れ連立政権に移動、しかし連立政権だけに政権の政策決定が迅速に定まらず経済は停滞、次から次へと償還期の迫る巨大な借金に耐えられなくなったスリランカ政府は、遂にハンバントタ港・ポートシティーなどを99年租借で中国に差し出します・・どちらも地政学的に重要な地域で、俗に言う「債務の罠」にはまったわけです。
*ラジャパクサ兄弟・・一族で政府の中枢を固めている
更にそれに輪をかけるように、2018年10月の政変問題、2019年4月の同時爆破テロ事件が起き、経済は大きく後退、連立政権の無政策ぶりに不満をいだく国民は、再び元大統領の弟ゴタバヤ・ラジャパクサ現大統領に政権を委ねましたが、2020年3月には世界的なパンデミックが起き、幾多のロックダウンでスリランカ経済は疲弊・・打ち出す経済刺激策は、次々と悪手で更に経済は悪化・・巨大な借金の償還に追われる現状は、まさに自力復活の万策尽きたといったところでしょうか。
また並行して、国民の期待をよそに現大統領のゴタバヤ氏は、兄のマヒンダ氏を首相、弟のバシル氏を経済相、他身内を大臣の要職等々、自身の身内で政府の中枢を固め、政策への反対意見を述べる大臣、官僚は即首にする強権政治を布き独裁色を強めているのも大問題・・2021年4月の有機農業政策は農作物の不作が続き頓挫し「食糧危機誘発」、また2021年10月に経済相と中央銀行総裁が行った金融政策は、急激なインフレと物不足を伴いながら「独立以来の最悪の経済危機」「国家経済破綻危機」を引き起こしています。
一年以上前から、野党をはじめ、有識者は、この経済危機を乗り越えるためには「IMF再生プランを導入するしかこの国の経済再生は無い」と警告しているのですが、いっこうにゴタバヤ政権は聞く耳を持ちません。最近は反対意見や政権非難を行った大臣や与党議員も即クビになる状況となっており、前向きな話し合いで、正しい政策決定が出来る状態ではないようです。
ここ一か月程一日数時間の停電が続いています。ガス・ガソリン・ディーゼルなどの燃料不足が顕著になっており、スタンドには燃料を求めた車や人々が長い列を作っています。物価は燃料を含めここ半年ほどで2倍近くに跳ね上がり、さして収入の上がらない一般市民は途方に暮れ疲れ切っています・・この市民の困窮した状況が大統領には見えないのでしょうか!?・・この状況は既に恐慌の入り口といって良いでしょう・・既にIMF再生プランを導入しても経済再生は無理かもしれません。
これは一個人の見解ですが、この国は一度破産し債務整理を行い、IMFの協力を得ながら新たな国家として出直したほうがよいのかもしれません・・人もそうですが、身の丈に合った「分相応」というのは大切なものです。
金満なスポンサーに出会い、豊を享受できた所までは良かったのですが、そのスポンサーは「ならず者」であった!よくある話ですね・・私の個人的見解が外れる事を願うのみです。
【現在の危機的経済状況】
●一月末外貨準備高23億6000万米ドルまで減少、一方スリランカの対外債務は総額510億ドル(国債残高は125億5000万米ドル)で、うち10億米ドルは7月に国債の満期を迎える。また、今年に関しては利払いを含め69億米ドルの対外債務を負っている。
●先週末変動為替制度に変更し、急激にルピー安が進行中、現在USD1.0=LKR260前後を推移、実勢からするとUSD1.0=LKR300付近まで下落の可能性有。
●ここ2カ月で3回目の燃料値上げ、更に変動為替制へ移行後の急激なルピー安を受け燃料価格高騰、ガソリン、ディーゼル共に先週末約45%価格上昇(ガソリンLKR177⇒LKR254/リッター、ディーゼルLKR121⇒LKR176/リッター)
●1月のインフレ率は16.8%、食料品価格は25%上昇、スーパーマーケットでは、米、砂糖、粉ミルクなどの主食の販売制限
●政府の外貨流出規制による輸入制限で起きる深刻な物不足、すでに数週間にわたる物資不足に悩まされており、公共交通機関は麻痺し、ガソリン・ディーゼルなどの燃料や食料、医薬品を求める長い行列が発生
●発電所燃料不足による計画停電(1日数時間、7時間以上の時も有)が既に数週間続いている。
このままでは、次は治安が悪くなるのは時間の問題だと思います。
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